私は青春学園、日吉は氷帝学園に通っている。だから、学校での日吉の様子を知らなければ、学校での私の様子も知られていない。たとえ、日吉と会うときは楽しそうにしていても、学校でいじめに遭っているなんてことは、知られていない。


「アイツさ〜、ちょっと強いからって、調子に乗ってるよね。」
「そうそう!それなのに、男子の前だと、すぐに変わるでしょ?」
「キモイよね〜!」

それが、(特にテニス部の)女子の私に対する考え。まぁ、当たっていないこともない。たしかに、この学校の女子の中ではテニスは強い方。それから、男子の前で変わっている。私自身は、女子の前での方が大人しくしているつもり。男子はおもしろいから、つい素が出てしまうけど。・・・だから、女子から見れば、男子の前で変わっていると見えるってわけ。

「テニス部、辞めてほしいよね〜。」
「ってか、学校を辞めてほしい。」
「むしろ、この世に存在しないでほしいよね〜。ハハハ。」

そんなことを言われて、避けられても、私は平気だった。1人でいるのは、結構好きだったから。男子と一緒になって、はしゃげなくなったのは、少し淋しかったけど。まぁ、私達の年だったら、それは仕方がないし、そんなに気にしていなかった。
そんなある日、私のラケットのグリップが外されていた。

「(ついに、ここまで来たか〜。これは、故意に外されたものだよね〜。じゃないと、こんなキレイに取れてないよ。・・・っていうか、持ちにくいな〜。部室にグリップテープ、置いてないかな。)」

結局、その日は、学校にあるラケットで、テニスをした。
次は、ラケットのガットが破られていた。

「(・・・こんなことに費やす時間があるなら、男テニの先輩にでも、告白すればいいのに。その方が、まだ有意義よ。こんな、つまらないことに。・・・っていうか、本当に頑張って、破ったわね。普通、ガットなんて、なかなか切れないと思うけど。)」

そんな風に、私が半ば感心していたら、犯人であろう人物が、話しかけてきた。・・・と言うか、いつも避けてる人が話しかけてきた時点で怪しいよ。

「大丈夫?さん。男テニに聞いてこようか?」

あ〜、なるほど。そういう一石二鳥になっていたのか。・・・私は、また感心した。

「いいよ。今日は、帰ってもいいかな?」
「仕方が無いもんね。・・・・・・そのまま、2度と来なくていいよ。」

そう言った。面と向かって言われる方がありがたい。というわけで。

「ありがとう。そうするよ。」



「そう言って、部活を辞めたの。日吉と同じテニス部だ、って話した次の週ぐらいかな。・・・私って、かっこいい。」
「自分で言うなよ。」
「話しても、それに対して何も言わないで、って言ったでしょ。」
「その話に対しては、言ってない。」
「そうですか。」

・・・話した。やっぱり、話さない方がよかったかもしれない。何でも話せる、と確かに思ったけど、その後のことを考えていなかった。

「今度は、日吉の学校の話、してよ。」
「・・・別に話すことはない。」
「部活のこととかさ、話してよ。」

半ば、命令口調で私は言った。この雰囲気が嫌だったから。消したかったから。


「へー。ってことは、跡部部長をたおすまで、日吉はテニスを続けるわけ?」
「強いのが、跡部部長だけとは限らないが、まぁ、まずは、ってところだ。」
「なるほど。でも、日吉はその鳳君とかより、弱いの?」
「・・・・・・シングルスでは、俺が勝ってる。」
「ごめん、ごめん。」

私は、今まで日吉と何度か会って、話しているけど、お互いの学校のことを話すのは、初めてだった。

「なんか、今日は新鮮な感じだったなー。」
「・・・そうかもしれない。」
「じゃあね。今日のことは、本当に気にしないでね。」

そう言って、その日は別れた。

それから、日吉は本当に何も言わず、いつもどおりに土・日曜日を過ごした。
そして、本当のことを話してから、1週間後。また、学校の話になった。・・・というか、氷帝の。

「なんか、部室にすごいお金をかけてるんだね。」
「そうか?」
「あと、コートの周りが階段みたいになってる、っていうのも、すごい。さすが氷帝。」
「・・・。部活、辞めたんだろ。」
「だから?」

なんで、今、その話をするのだろう。関係無いよね?・・・そう思っていたら、少し、怒った様な声が出てしまった。・・・ゴメン、日吉。怒るつもりはないけど・・・。

「じゃあ、どうせ平日は暇なんだから、見に来ればいいだろう。」

あ〜。日吉なりに気を遣ってくれているのか。・・・ありがとう。

「暇なんだから、って勝手に決めたわね。まぁ、暇だけど。・・・でも、いいよ。だって、ファンの子達がたくさん、見に来てるでしょ?」
「それが?」
「だって、ファンの子で日吉が見えなかったら、意味無いし。それに、他の子が『日吉くーん』とか言ってたら、妬いちゃうもん。」
「・・・気持ち悪いから、やめろ。」

はっきり、気持ち悪いと言われた。それは、ないでしょ・・・。

「気持ち悪い、って失礼ね。まぁ、本当は別の理由なんだけどね。」
「別・・・?」
「うん。だって、氷帝に行ったら、目立っちゃうじゃん。制服にしろ、私服にしろ。そしたら、ファンの子達に目をつけられるし。」
「他校から来てる奴も多い。」
「それは、そうだけど。たぶん、その子達、全員目をつけられてると思うよ。それに、私は青学で嫌われてるんだから、もし、ファンの子達と青学の誰かが友達だったら、もう終わりだよ。」

日吉は、あまり納得いっていない顔をしていた。だけど、女子を甘く見ちゃいけないよ、日吉。女子は、とんでもなく情報網が広くて、すぐにグループになって、何かをする。それが、いじめだったら、尚更、手は早い。

「まぁ、氷帝の制服、じゃなくて指定服だっけ?それを買えば、大丈夫かもね。」
「わざわざ・・・?」
「冗談だよ、冗談。」

そう言って、もう、その話はやめた。
けれど、なんだか雰囲気が悪いのは、直らなかった。最近は、ずっとこんな感じだった。・・・やっぱり、話さなきゃ、よかった。なんて、思っても、もう遅い。

それから、2週間後。日吉がついに言った。

。なんで、部活、辞めたんだよ。」
「・・・だから、みんなに辞めろ、って言われたから。」
「それで辞めるほど、お前はテニスが好きじゃないのか。」
「好きだよ。だから、日吉にも頼んで、テニスをやってるんじゃない。」
「じゃあ、辞めるなよ。」

今日は、やたらと言ってくる。・・・今までも、そう思っていたのだろうか。そう思いながら、黙って、聞いていたのだろうか。

「あんなところで、テニスをやっていても、楽しくないもん。私は、テニスを楽しみたいのに。」
「そう言って、逃げてるだけなんじゃないのか。」

さすがに、私もそれを聞いて、大人しくしては、いられなくなった。

「あんな奴らから逃げてる?・・・笑わせないで。そんなわけないでしょ。」
「だけど、はあいつらの思い通りになってる。」
「なってない!」

私は大声で言った。・・・まるで、自分に言い聞かせるように。誰もいない、ストリートテニス場でよかった。

「いや、なってる。そいつらがに部活を辞めてほしい、と思った。そして、は本当に辞めた。これのどこが、思い通りになってないって言うんだ?」

少し怒り気味に日吉が言った。私は、それを聞いて泣いた。みっともない。

「・・・じゃあ、どうすれば、よかったって言うの?!!」

これじゃ、子供の逆ギレだ。本当にみっともない。

「テニスで、そいつらを打ち負かせばいいだろう?やっぱりには勝てない、って見せ付けてやれよ。それでも、いじめてくるような奴らには、そんなことでしか抵抗できないのか、って言ってやれよ。」
「・・・グス、日吉。」
。泣いてたら、本当にそいつらの思う壺だ。」
「・・・ううん。これは、嬉し泣きだもん。」
「そうかよ。」

そう言って、日吉は微笑んで、私の頭をなでてくれた。

「日吉・・・、ありがと・・・・・・。グス。」
「どういたしまして。」

この前まで、話さなきゃよかったなんて、思っていたのに、今では、話してよかったなんて、思っている。本当に日吉は、すごい。だから、好きだ。

そして、それ以来、仲良くなった私達は、次の土・日曜日も、今まで以上に楽しく過ごせた気がした。
それなのに。

「ど、どういう・・・こと・・・・・・?」

今日は、火曜日。私は、昨日、部活の再登録をした。だから、今日から、部活を再開したから、明日は会えない。だけど、理由を「ちょっと用事が・・・」とか言って、会えないって電話して、土曜日に実は再登録した、って言って、日吉を驚かすつもりだった。だけど・・・。

「若君がもうとは会いたくない、と言っているらしいんだ。」

そうお父さんが言った。

「どうして?一昨日だって、一緒にテニスをしたのに?!」
「お父さんも、日吉さんによく聞いたんだ。だけど、『とにかく、会えない。』の一点張りで・・・。」
「そんな・・・。」

そう言って、私は泣いた。だけど・・・。

「やっぱり、納得できない。日吉に直接聞いてくるっ。」

そのまま、私は家を飛び出した。

!!!」

お父さんが、そう言って呼び止めていたけど、無視した。すると、家の前に車が止まっていた。運転席には、お母さんが座っていた。

「・・・お母さん?・・・・・・私・・・。」

私、お母さんが止めても、絶対行くから、そう言おうとした。そう、今回ばかりは、お母さんの言うことも聞けない。

。早く、乗りなさい。」
「えっ・・・。あ、うん!」


「お母さんも、お父さんから聞いたわ。だけど、お母さんも信じられなくて。お父さんに内緒で、ずっと待っていたの。・・・きっと、が出てくるだろうと思って。」

お母さんは、やっぱりすごい。

、泣き止みなさいよ。」
「うん。大丈夫。・・・お母さん、氷帝、どこかわかる?」

氷帝の男子テニス部は、きっと今の時間でも部活中だと思って、そう言った。

「もちろんよ。・・・じゃあ、ちょっと、とばすわよ。」

そう言って、お母さんはアクセルを踏み込んだ。

私は、ものすごい勢いで走っていた。これでタイムを計ったら、自己新記録が出るかもしれない。だけど、自己新記録が出るなんて、どうでもよかった。早く、あの人の所へ行きたい、それだけだった。

 ドン!!!!

「す、すいません・・・!」

必死に走っていたから、横から人が来ているのに気付かず、ものすごい勢いでぶつかってしまった。

「てめぇ、どこ見てんだ?!」
「すいません!・・・あの急いでいるので・・・・・・!」

そう言って、その場から立ち去ろうとしたけど、その人に腕をつかまれてしまった。

「お前、その制服・・・。うちのじゃねぇな。」

私が着ているのは、青学の服。だけど、ここは氷帝学園だ。

「青春学園の者です・・・。・・・それでは。」

そう言ったけど、やはり、その人はつかんだ腕を放さなかった。

「ちょっと待て。青学の奴が、ここに何の用だ。」

ここは素直に言うしかない、そう思って私は話した。

「日吉 若君、どこにいるか、知りませんか?」
「日吉・・・?」

この人が日吉を知っているとは限らない、そう思って私は言い直した。

「あっ・・・。あの日吉君を知らなければ、テニスコートに連れて行ってください。そこにいると思うので。」
「いや、日吉は知ってる。・・・俺もテニス部だからな。」
「そうですか。・・・あの、それじゃあ・・・・・・。」

それじゃあ、テニスコートに連れて行ってください、そう、もう1度言おうとしたけど、その人はさえぎって、質問をしてきた。

「日吉と、どういう関係なんだ?」
「・・・私の父の知り合いの息子さん、なんです。」
「それだけか?」

なぜ、この人に、そこまで聞かれなければならないのだろう。

「とにかく、急いでいるので。」
「待て。日吉は部活中だ。ちゃんとした理由を聞かせてもらわねぇと、日吉に会わすことはできねぇ。」

・・・仕方が無い。あまり言いたくないけど、ここは言うしかない。

「私は、日吉君の元婚約者です。」

そう言うと、相手の人は少し、黙ってから言った。

「・・・それは、悪ぃことを聞いた。・・・・・・俺は、テニス部部長の跡部だ。」
「あなたが跡部さん?!」
「あぁ。」

日吉の口から聞いたことのある名前だ。・・・たしか、日吉が下剋上をしたいとか言っていた人だ。・・・ということは、この人が1番強い人。

「それで、テニスコートには、連れて行ってくださるのでしょうか。」
「あぁ、いいぜ。・・・だが、お前の名前を聞いていない。一応、日吉にも確認してからじゃないと、会わせられないからな。」
 です。」
「急いでるんだったな。じゃあ、走っていくぜ。」
「はい。」

そして、私はまた、全速力で走った。


「ここで、待ってろ。日吉を呼んでくるから。」

そう言って、跡部さんは走って行った。私が急いでいる、と言ったから、走って行ってくれたのだろう。それに、跡部さんはわかっているのだ。自分と歩けば、それだけで女子に目をつけられるということが。だから、あえて、コートから少し離れたところで別れ、自分1人で日吉を呼びに行ったのだろう。・・・最初は、嫌な人だと思っていたけど、本当はいい人だな。


「日吉。日吉はいるか?!」
「はい。なんですか。」
という女が日吉に用があるそうだ。・・・何か、急ぎの用みたいだぜ。」
「・・・が?・・・・・・とにかく、ありがとうございます。」
「おい、日吉ー!女って、彼女かよー!」
「やるな〜、日吉も。」
「向日先輩、忍足先輩。邪魔です。どいてください。」
「冷てぇなぁ!」
「まぁ、岳人。日吉も早く、彼女のところに行きたくて、急いでんねん。どいたろう。」
「だな。」
「・・・・・・・・・・・・(睨)。」


日吉が走って、こちらに向かってきた。表情は、ほんの少し、怒っているようだった。・・・やっぱり、会いたくなかったのかな。

「どうした、。何かあったのか?」

けれど、日吉は普通に言った。・・・もしかすると、先輩達に何か言われたのかもしれない。とにかく、私は説明した。

「だって、日吉が――。」

今日、帰るとお父さんに「若君がもうとは会いたくない、と言っているらしいんだ。」と伝えられたこと。お父さんが日吉のお父さんにくわしいことを聞いても「とにかく、会えない。」の一点張りだったこと。それを聞くと、日吉は表情が変わった。

「どういうつもりだ?あの親父・・・!」

そう日吉が言った。

「・・・日吉?」
「俺は、そんなことを言った覚えは全くない。」
「そう・・・なの?」

私は、それを聞いて安心した。

「当たり前だろ。」
「・・・・・・よかった。」

思わず、私は泣いてしまった。本当によかった、と思って。

「おい、?」
「ごめん。・・・日吉に直接聞きに来て、よかった。・・・本当に。」

泣いて迷惑だな、と思ったけど、日吉は、私を抱きしめてくれた。

「会いたくない、なんて思わねぇよ。・・・もっと会いたいのに。」

そう小声で日吉が言った。・・・こんなに至近距離だったら、絶対に聞こえるのに。日吉って、案外馬鹿かも。・・・あるいは、わざと聞こえるように言ったのかもしれない。日吉なら、あり得る。どちらにしても、その言葉は本当に嬉しかった。

。今から、俺の家に行くぞ。」
「・・・え?」

日吉が急に私を離して、言った。

「俺は、跡部部長に言ってくる。」
「ちょ、ちょっと!」

そう言ったけど、日吉は無視して走って行った。


「跡部部長。ちょっと、用事ができたので、今日は帰ります。」
「・・・・・・・・・・・・。・・・・・・わかった。」
「・・・ありがとうございます。」
「・・・・・・何や、日吉。帰りよったん?」
「ズリィーじゃん、跡部。俺も帰るー!」
「お前らは、グラウンド10週して来い。」
「・・・えっ、俺もかい・・・・・・。」


日吉がまた走って来た。そして、私の腕をつかんで言った。

「・・・早く行こう。」

私達は、校門の方へ走って行った。すると、そこには、お母さんがまだいた。・・・ちょうど、よかった。

「お母さん、日吉の家、わかる?」
「・・・・・・えぇ。」
「じゃあ、日吉の家へ連れて行って。」









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第1話でぶつかった相手は、跡部さんでした〜!
彼は絶対に良き理解者です。「“元”婚約者」と聞き、何かあるなと感じて、日吉も帰らせてくれます。
そして、忍足さんは可哀相な人です(笑)。そして、向日さんが馬鹿っぽくて、残念です・・・。
当サイトでは、『男前がっくん』を目指しておりますので・・・(笑)。

では、次が最後の話です。